MONO thingsfrom RCA-KCUA exchange

Interviews 
卒業生が語る交換留学

西條茜インタビュー

京芸の陶芸専攻から,世界中のキャリアあるデザイナーが学びに集まるRCAのデザイン・プロダクト専攻へと留学した西條茜さんからお話を聞きました。
(聞き手:金氏徹平,橋爪皓佐)

留学のきっかけ

西條:RCA に行こうと思ったきっかけは,京芸で学部2回生から院1回生までずっと陶芸やってきて,陶磁器の素材とか技術とかと向き合って(作品を)作りましょうみたいな専攻内の雰囲気を感じていたんですがそれが結構しんどい時期があって。もちろんそういった作り方から学ぶ部分もありましたが,ちょっとそこから一度出たいなと思ったことです。専攻は,陶芸以外のところだったらいいなと思ってて。それでRCAのデザイン・プロダクトという所を選んだんです。まあ,プロダクトやったら陶芸にもちょっと近いやろうと思って。

橋爪:プロダクト以外の専攻も考えましたか?

西條:彫刻もちょっと考えたんですけど,彫刻希望で留学に応募してる子が何人かいたので,とりあえず行けることを考えて,誰も(希望者の)いないデザイン選んだんですよ。
でも選考に受かって行ってみたら,デザイン・プロダクトは思ってたよりも課題が多くて,自由度がすごい低かったんですよね。他の専攻ではそこまで課題は多くなかったんですけど。社会の問題点みたいなものを考えて,で,そこからソリューションを考えましょうみたいな授業が結構多くって。それ自体にはあまり興味はなかったんで,課題は何となくでやってました。でも色んな素材を使うのがすごい楽しくて。他の色んな素材を,使うというか,それに合った素材を選ぶじゃないですか。

橋爪:なるほど。デザイン科だと,陶磁器に限らず色んな素材を使うことができますものね。課題など,どういう環境で制作していたんですか?

西條:RCAには共同作業場みたいなところがあったので,そこで色んな素材を触りながら作るみたいなことしてたんです。ポテトを使って何か作ってる子もいたり,レジンとか,鉄とか,みんな広く自由に素材を使ってました。いろんな専攻の子達が同じ作業場を使って素材を触ってるっていうその状況がすごくいいなと思って。京芸も移転先ではそういう感じになるって聞いたんですけど?

金氏:共有工房のことですね。イメージの中では,RCAのダイソン・ビルディングみたいな。規模は全然違いますけど。海外の,特にヨーロッパの大学をベースに計画してるっていうのはありますね。

西條:そうなんですね。あれはすごい新鮮で,良かったなって,刺激になったなっていうのがあります。専攻の間を自分で越えて行く楽しみみたいなのも,京芸にはあると思うんですけど,きっかけがないと,なかなかできなかったりする。共有工房があるとそれがすごいやりやすかったですね。

橋爪:なるほど。共有工房が出来ると京芸にも変化が起こりそうですね。

西條:それから京芸に帰ってきて,結局デザインではなく陶芸を続けたんです。RCAでは,デザインじゃないかなっていう確認作業をしたというか。

橋爪:確認作業というのは具体的にどういうことですか?

西條:結局,ソリューションを考えるみたいなことに全く興味がなかったんだなと思って。向こうで見た現代美術の展覧会とか,もちろん刺激になったし,OB・OGたちがやってる展覧会とかも見て,ちゃんと美術で食ってんだなぁみたいな感じも刺激にはなったんですけど。そこよりも,美術とか,焼き物がすごい肌に合ってたんだなっていうのを再確認しました。例えば身の回りにある何かちょっとモヤモヤした違和感とか,どうしようもないことがあった時に答えを無理に求めず,ただとりあえず受け止めてみるところであったり,同じように素材として焼き物が100%自分がコントロールできないからこそ不自由を受け入れて作っていく感覚にも改めて魅力を感じることができました。そういう風に作品を作っていくことが自分には向いてたんだなっていう確認作業ができて,それが大学院でてからの自分の方向性をちゃんと決めるのにつながったかなと思います。

RCAのデザイン・プロダクトとは

金氏:RCAのデザイン・プロダクトって,ある意味超エリートな所で,デザインの分野ではみんな行きたいと言うか,世界最高峰と言ってもいいぐらいのところで,そこになんとなく行ってしまったっていう経験が面白いなと思うんです。京芸の陶磁器でやってることと,RCAとのギャップと言うか,どういう部分が一番違ったなと感じて,その後の活動にどういう影響があったか,すごい興味深い部分だと思うんで,もうちょっと具体的に聞かせてもらえると面白そうだなと思うんですけど。


西條:それはデザインをやってみてということですか?

金氏:例えば企業で働いてる人が,その会社に在籍したまま,学び来てたりもするじゃないですか。

西條:そうですね。


金氏:さっき「食ってるな」って言ってましたけど,RCAの,特にデザイン科では社会との繋がりみたいなのが強烈に,大前提としてあると思うんですよ。この辺りは何か感じたことありますか?

西條:本当にその通りで,サムソンやレクサスからキャリアのすでにあるデザイナーが短期留学で来ていたりしていました。思考においても,作るものも,やっぱりすごくプロフェッショナルでした。多分デザイン・プロダクトって言っても,モノをデザインするってよりは,モノが出来てくる過程をデザインするところが,その専攻の特徴やったと思うんですよ。プロダクト・デザインって,フォルムとか形とかをデザインするっていうイメージだったんですけど,そうじゃなくって,ソフト面やリサーチをすごい重視するっていうか。

金氏:向こうのデザイン科の人は,基本的にイノベーションと言うか,就職してその枠の中で何かやろうみたいな発想はそんななくて,いきなり独立して会社作るのがベストで,それが出来ない人が会社に入るみたいな。

西條:なるほどそうですね。相性の良いデザイナー同士が組んで,卒業してすぐ事務所立ち上げるとか結構みんなしてました。


金氏:その辺のスタンスが本当に京芸と全然違うところですね。

西條:そうですね。もう本当にそれで生活していくんだっていうか,社会と繋がっていくんだっていう,卒業した後のビジョンがはっきりしてるというか。

金氏:そういうとこから自分のその後の活動で影響を受けたこととかありますか?京都ではすごくマイペースでできるところがが,それはそれでいいところだと思うんですけど。

西條:そうですね。逆に卒業してすぐに皆二人三人とか組んで,事務所を作るみたいなのが,結構テンプレ化してんのかな?これ流行りなのかな?みたいなのがちょっとありました。スペキュラティブ・デザインとかデザイン思考とか当時すごく流行ってたんですけど,なんとなく皆が作るものも同じような感じで,結構一過性のムーブメントであるようにも見えました。

金氏:大学の中で,社会の流れとか,デザインだったり,美術だったり,流行りだったりムーブメントだったりみたいなものが,見えるっていう時点で,結構京芸と違うというか,京都にいて,今の社会とか,流行りみたいなものが感じるとか見えるって事ってあんまないと思うんですね。

西條:確かに。

金氏:それは面白いとこですね。ムーブメントが見えるって言うのは。

西條:なるほど,そうですね。

帰国後の活動

橋爪:RCAの人たちは,2,3人でチーム組んでデザイン事務所立ち上げてっていう感じの中,ご自身も,京芸に帰ったらアーティストとして大学を離れて活動していくことを考えなくてはいけない状況だったと思うのですが,今の活動も踏まえて,自分はRCAの後にどうしたかも話していただけますか?

西條:そうですね,私は修了した後は,大学の非常勤講師を2年しました。でもロンドンでの経験がすごい刺激的だったのもあるし,海外にちょっと出たいって思ってて,このまま京都で制作してても,先が見えないなと思って。それで,オランダのレジデンスに行ったんです。そこで,3か月弱かな,制作して。それで作品を持ち帰ってきて日本で発表するみたいなことをやったんです。その時に,そういうスタンスでやって行くのもありだなと思って,京都を拠点にしながら,今21世紀だし,色んな所にポンポンポンポン行って,いろんなリサーチをして,素材は主に陶芸って決めて,作品を作っていくっていうことを今やってるんです。陶芸は世界中のいろんな場所にいろんな技術があるので,いろんな場所にレジデンスがあるし。

橋爪:なるほど。各地で産出される土と共に技術が発達した,地域性の強い陶芸ならではの活動ですね。

西條:あとRCA のデザイン・プロダクトに行ってすごいよかったなあと思ったのは,その場所に行ってリサーチをして問題点からソリューションを考える,みたいな話をさっきしましたけど,行った場所のリサーチからインスピレーションを得て作っていくっていうやり方です。大学時代,RCAに行くまでの自分の作品の作り方とはちょっと違ったので,それがすごく面白かったんですよ。素材以外からインスピレーションを受けて,外の情報を得て作っていくっていうのは,なんとなく自分に合ってるなと。で,素材は陶磁器に芯を置いて,レジデンスとか,窯元とか,いろんな場所に行きながら,そこで見つけた物語とか,リサーチして得た情報とか,そういうのものを使って作品を作って発表するっていうサイクルを今は続けて居ます。

金氏:その辺のスタンスのきっかけとしてRCAに行ったことが大きかったんですかね?

西條:そうですね,考えが開けましたねだいぶ。それまでは本当に物を作るというと,色とか形とか,なんでしょうね。商品?でもないですけど,自分が何に面白みを感じて作ってるのかよくわかってなかったんです。


金氏:RCAに行って,しかも違う専攻に行ったっていうことで,今まで自分のやったことにとっての,ものすごいはっきりした他者と言うか外部と言うか,そういうものが意識されるっていう事はあるかもしれないですよね。日本でももちろん,周りに色々な他者がいて,自分がやってることを説明しないと理解されなかったりとか,もしくは理解されないままでも続けていかないといけないような状況ってのはあるんだけれど,それが海外に行くと,言葉の問題もあるし,文化が違うってこともあるけど強烈にそれがはっきりと意識させられる。しかも異分野の専攻に入ったのならなおさらですよね。その辺はなんか実感ありますか?自分の陶磁器の作品とかも見せたりとかはしてたんですか向こうでは?

西條:作品写真とかは時々見せてたんですが,見せても,いいね! みたいな感じの反応は返ってきたりするんですけど,そこまで深い話ができなくて。デザイン用語もあまり知らなかったし。しかも英語もそこまで話せなかったんで,深い話ができずに,もやっとした感じで留学が終わってしまって。ただ,その後オランダに行った時はもう少し突っ込んだ話ができるようになって作品についても落ち着いて意見交換ができるようになりました。

金氏:RCAの後にちゃんとその経験を活かす場所を自分で作れたっていうのは大きいかもしれないですね。本当は3ヶ月って挫折を味わうには十分だけれど。

西條:そうですね(笑

金氏:成果を上げるにはあまりにも短い期間なんで。本来はその次があって然りと言うか,次がないと意味がないもんだと思うんですけど。挫折みたいなことってはっきり感じたりとかありましたか?

西條:挫折はずっと感じてました。まず自分の英語が通じないので,ゼミ・ミーティングで自分のやりたいことについて話すんですけど,この子話せないからちょっと他の日本人学生呼んできて! みたいに言われて,通訳してもらって話したりしたんですけど。それでも通じないから。とりあえず絵を描いてって言われて。次のミーティングの時は絵を描いていって説明したんですけど,私デッサンとかめっちゃ下手やったんで,絵でも通じなくて(笑)。
日本だと意味を汲んで,理解しようとしてくれる雰囲気があると思うんですけど,それも無かったし,ロンドンでは自分でガンガンいくしかなかったです。

金氏:しかも自分の粘土で作ってる作品を見せることもできないってことですね。専攻が違うから。結構大変ですね。

西條:そう,得意なことを抜き取られた状態で勝負しなきゃいけないっていうのはありました。

金氏:僕も言葉は全然駄目だったんで,本当に子供扱いされるって言うか,そういうのはよくわかるなと思います。でも目の前に作品があればコミュニケーションはなんとでもなるっていう経験もしたんで,そこは大きかったなと思って。だから作品すら見せられないっていうのは確かに辛いかもしれないですね。

西條:そうですね。先生がおっしゃったみたいに,何も言わないと何も考えてない子に思われるっていうのがつらかったし,モノ(作品)ももちろんないから本領発揮できなかったです。でもその経験があったから,他の場所でもいいから,海外にもう一度行きたい,もう一度勝負したいって。それでオランダに行きたいと。そこにつながったのは良かったかなと思いますね。

金氏:なるほど。


橋爪:最近の展示では,楽器のような作品を作って自身でパフォーマンスをされていると聞いたんですけど,どういう心境で制作の中にパフォーマンスを取り入れていったんですか?


西條:私は焼き物の中の「空洞」を一つのキーワードにして作品をしばらく作ってきてるんですけど,自分が作ってる時にしかその空洞が見えないので,その空洞を見せるような,感じてもらうようなことができないかなと思っていて。最初は空洞を視覚的に見せるような展示を作ったんですけど,ちょっと無粋やなと思って。それで,もし自分でその空洞に息を吹き込んでみたら,その空洞を耳で感じられるるんじゃないかなと思ってそこからパフォーマンスをし始めたんです。
あと焼き物と人間が似ているというか。人間の体の中も空っぽやし,焼き物も空っぽで。なんとなく肉感みたいなものも似ているので。自分の体と焼き物を接続する,みたいなこと,してみたいなと思って。

橋爪:なるほど。やっぱりデザイン的な思考は少しは影響するものがあったのかもしれないですね。

西條:そうですね。ロンドンの経験がそこにいかされてるかわかんないけど,でも留学する前の状態でそのまま続けてたら今とは違う作風になってたかなって思います。

西條茜

1989年兵庫県生まれ。 京都市立芸術大学大学院 美術研究科修士課程 工芸専攻陶磁器分野 修了。2013年ロンドン ロイヤルカレッジオブアートへ交換留学。「空洞」でありながら「リアリティある表面」という陶磁器の特徴に着目する一方で、世界各地にある窯元などに滞在し、地元の伝説や史実に基づいた作品を制作している。

〈主な個展〉 2019年タブーの室礼(ワコールスタディホール/京都)、2017年Folly(アートスペース虹/京都)、〈主なグループ展〉2019年越境する工芸(金沢21世紀美術館/金沢)、ARTISTS’ FAIR KYOTO 2019(京都文化博物館 別館/京都)、2018年ニューミューテーション −変・進・深化(京都芸術センター/京都)、2017年Ascending Art Annual Vol.1 (スパイラル/東京)。〈アーティスト・イン・レジデンス〉2019年Le Maupas A.I.R.(フランス)、2017年European Ceramic Work Centre (オランダ) 。2020年度京都市芸術文化特別奨励者認定者。