2019年度 国立高等装飾美術学校(ENSAD)/フランス 稲 あゆ美
学部
大学院美術研究科
美術学部・大学院美術研究科
年度
2019
氏名/専攻
稲あゆ美/染織
プロフィール
学年 修士課程2回生
留学先 国立高等装飾美術学校
留学先専攻 Textile Design et Matiere
留学期間 2019年8月末~2020年1月
留学行動記録
8月27日 | 日本出国/シャルルドゴール空港着、アパートに移動 |
9月3日 | 銀行開設 |
9月6日 | ロワールへ旅行 |
9月17日 | オリエンテーション |
9月18日 | フランス語チェック |
9月23日~26日 | 履修登録期間 |
9月23日~ | 授業スタート 月 午前 Graphisme matière 午後 Graphisme, Theorie ennoblissement, フランス語 火 午前 Culture thechniques 午後 Tissage / silk screen / maille 水 午前 Studio dessin 午後 Studio dessin <Le regard et le gestes>, フランス語 木 午後 英語 (Refresher classes) 金 午前 Photographie |
10月22日 | Tissage 終了 |
10月26日~11月3日 | 秋休み |
10月26日~28日 | アンジェ 旅行 |
11月4日~5日 | Workshop shibori |
11月9日~10日 | オービュッソン 旅行 |
11月12日~ | impression(シルクスクリーン)スタート |
11月30日~12月1日 | リヨン 旅行 |
12月3日 | maille(編み)スタート |
12月9日~13日 | Workshop impression |
12月10日 | 担当の先生へ作品の相談 |
12月16日 | Graphisme Matiereのまとめ |
12月21日~1月5日 | クリスマス休暇 |
1月 9日 | アパートを引き払う |
1月10日 | フランス出国 |
1月11日 | 日本に到着 |
授業や制作について
今回私は、Textile Design et Matiere専攻の織(Tissage)のゼミに所属し、4ヶ月間学びました。授業は、毎週火曜日に専門の織の授業があり、そこで、和機ではないヨーロッパの織機などに触れることが出来、改めて織の基礎から学ぶことが出来ました。そして、その織機を動かすためのPoint caree というソフトを使って、織の組織の基礎を学びました。授業内では、指導員の方の解説などを理解することが出来ず、渡された資料やサンプルを基に言葉で理解できない部分を補っていました。授業外でも空き時間があれば、なるべく様々な経糸を用いて素材や組織を試すようにしていました。こうして改めて織物の基礎となる組織に触れ、織物の経糸と緯糸が作り出す関係性について考える事ができました。こうした織の基礎習得以外にも、絞りやシルクスクリーン、編みのワークショップなど日本とは違う材料を使った藍釜や大学にある機材、それらすべてを使うことが出来たことは代えがたい経験でした。
そして、専攻の授業は実習と同時進行で、Graphisme matièreの授業で自身の研究するテーマやテキスタイルを深めるためのアプローチの方法や過程を学ぶカリキュラムがありました。この授業は、私の欠点である作品の始まりについて考えるきっかけとなりました。具体的にどんな問題を抱えているか。それは、制作で描きたいモチーフやテーマに縛られてしまい、視野が狭くなってしまう傾向です。そうした中で、考える為の体系、他の学生のドローイングや取り組みをそばで見ていて、自身の問題に気付けたことや制作するうえで、最初は何事も情報や要素として、多く自分の中に引き出しを持って制作に取り組む事が肝心だということに気付けました。作品を作るうえでは、初歩的な事柄なのですが、ずっと迷走していた自身にとっては、このことに気付けたのはこれからの制作において良い機会となったと感じています。他にも、二つスタジオをとる必要があり、私はDessinのヌードクロッキーの授業とPhotographieの授業を取っていました。 大学外でも、自身が専門にしているタペストリーのコレクションがあり、タペストリーの源流に現地で触れました。そして、作品だけでなくそれに関わる下絵やマケットなど制作過程に関わるものなども見ることが出来ました。タペストリーに対してもっと広い視野を持つことが出来ました。
現地での生活について
初めての海外渡航だったので、全ての景色が日本と違い、とても新鮮でした。そして、怖くもありました。事前の情報でスリやひったくりなど気を付けなければならない、私が暮らしていたアパートは学生街の6区にあり、大学へも徒歩で10分ほどしかかからないくらい近い場所に住んでいました。交通機関などを利用しなくともルーヴル美術館やオルセー美術館など数多くの施設に向かうことが出来、12月の初旬から続く大規模ストライキも自宅が大学から徒歩で行ける距離だったので、通学にも問題なく過ごすことが出来ました。こうしたストライキはそれ以前にもあり、旅行先から帰ることが出来なくなってしまうことがありました。交通機関がほぼ使えなくなってしまう状況は日本ではありえなかったので、当初は驚きました。ですが、現地に住んでいるフランスの国の人々は落ち着いていて、これもフランスの文化・伝統だと思いました。現地に居る時は毎日、明日は大丈夫かなと思いながらの生活ではありましたが、これを経験できるのはその土地にいる人間だけ。
語学について
私はフランス語の勉強を始めたのが、4月からでした。大学での授業、外部の語学学校でフランス語を勉強していました。自宅でも、フランス語の映画を見るようにして、言葉に触れる機会をなるべく多くするようにしていました。フランスに渡った後は、自宅でテキストを使い、語学学習を進めていました。大学が始まってからはフランス語の授業が週に2回あり、全てフランス語で行われる授業でした。
大学内では、フランス語と英語の二つの言語を半々に使う生活でした。二つの言語を使っての生活は苦しいものでした。英語にも慣れることが出来るように大学の英語の授業も週1回で受けていました。
フランスという国では、英語をしっかり話せていれば、コミュニケーションが可能です。しかし、フランス語を理解できないと深く作品について話してくれないということも多くあるようで、英語が話せる学生もそうした部分で苦労しているようでした。学術的な場において自身の語学能力は、実力不足で伝わらないこと、伝えられないことに苦しさと悔しさを感じました。これから留学を考えているのであれば、自身の制作や生活の為にも早めに語学の勉強を始めておくべきだと思います。
留学を終えての感想
まず、語学への意識がこの4ヶ月で変わりました。自身の国を出て自分の専門分野に立ち、自身の言いたいことを何も言えないというのは苦しかったです。日本で何気なく使っていた言葉が、国が変わることで、ままならなくなり、思うようにどんなことも進まない。自身の制作に関わる文章を先に作り、準備などをしたりしてもそれ以上に伝えられることが出来ず、歯がゆかったです。そんな中でも周りの学生や同じ留学生の友人、フランスで知り合った方々に多く助けて頂いたので、この留学期間めげることなく、しがみついていくことが出来ました。そして、その中でたくさんの出会いや経験がありました。同じ留学生の作品にモデルとして参加し、日本人のタペストリーの職人さんとの出会いや、その方を通じて、現地で働く若手のタペストリーの職人さんの仕事場を見せていただき、実際に現地で職人として活動している方々がどんな風に製作をしているかを知ることが出来ました。タペストリーだけでなく、自分の住んでいたパリの街やフランスの他の地方にはたくさんの美術館や博物館があり、絵画作品や工芸品を見る事でこれからの制作の多くの糧となりました。
海外に対して、自身は展望がないほうだったのですが、この留学を通じて、日本以外の世界を知りました。日常的に街や景色に組み込まれているフランスの芸術の要素にじかに触れ、この3か月間で自身の中に想像以外の生のフランスを感じることが出来たことは、私にとって人生の宝になったと思っています。