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2024年度 マグダレナ・アバカノヴィチ芸術大学/ポーランド 谷村 無生

学部
大学院美術研究科

年度
2024

氏名/専攻
谷村 無生/芸術学専攻

プロフィール

学年 大学院美術研究科 修士課程2回生
留学先 マグダレナ・アバカノヴィチ芸術大学/ ポーランド
留学期間 2024年10月~2025年2月

留学行動記録

9月16日 日本出国
9月17日 ポズナン到着
9月27-29日フィールド・トリップ(ワルシャワ):
Warsaw Gallery Weekend回り、アーティスト鴨治晃次氏、Museum of Art in Łódź MS1, MS2コンサヴァター鴨治尚子氏との面会など)
10月1日 オリエンテーション/授業登録/スタジオ回り
10月7日 授業スタート
10月12日フィールド・トリップ(ヴロツワフ):美術館・ギャラリー訪問
10月24日 ワルシャワ近代美術館リニューアルオープンセレモニー参列
11月10~15日Tschierv、スイス合宿(ポズナン芸術大学xチューリッヒ芸術大学 共同プログラム)
11月15~16日 フィールド・トリップ(チェコ)
11月27日プレゼンテーション(アダム・ミツケヴィチ大学日本語学科)
12月6日アーティスト 鈴木ヒラク氏が参加するグループ展オープニングに参列(ヴロツワフ)
12月16-19日フィールド・トリップ(パリ):Beaux Arts de Paris構内見学/ギャラリー・美術館訪問
12月20~22日フィールド・トリップ(ベルリン):美術館・ギャラリー訪問
1月5日修士論文提出
1月12日フィールド・トリップ(グダニスク):美術館・ギャラリー訪問
1月14~17日所属スタジオでの最終プレゼンテーション&講評会
1月17日フィールド・トリップ(ウッチ):鴨治尚子氏の案内でMuseum of Art in Łódź MS1およびMS2の見学
1月17~20日フィールド・トリップ(クラクフ):Leszek Sosnowski氏(ヤギェウォ大学教授)の案内でギェウォ大学の見学、アーティストシオン(SION)氏、Beata Romanowicz氏(クラクフ国立博物館学芸員)との面会、美術館・ギャラリー訪問など
1月24日鴨治晃次氏のアトリエ訪問(ワルシャワ)
1月24日ポーランド出国
1月25日 日本帰国

授業や制作について

 Faculty of Art Education & Curatorial Studiesのスタジオ2つ(①Studio of Creative Projects and Activities Studio/②Studio of Open Interpretations of Art)、Faculty of Intermedia(③Studio1)に在籍した。
座学授業は❶History of Art、❷Art Marketing and Project Management、❸Case Studies in Contemporary Artの授業に参加した。

【前半】

スタジオでは基本的に個人での活動が主流で、毎週先生や学生らと話しながら、今期の活動アイデアに輪郭を与えていく進め方だった。
①主に美術教育を目的としたワークショップやイベントの企画
②現代美術における「引用」に注目し、実際に美術史などの文脈を積極的に取り入れた作品制作を試みる。
③リサーチやキュレーションの手つきを取り入れた、作品や展覧会企画を考え実践する。最初の授業で教授が書いたテキスト(思想や哲学的な用語が散りばめられたもの)が配布され、それと自身の関心、専門領域を引き合わせることで企画を考えていく。

座学
①今期は主に西ヨーロッパの19世紀(印象派誕生)から第二次世界大戦後あたりまでを取り扱った。
②学生が卒業後にアーティストとして活躍するために必要とされるギャラリー、美術館などの制度、アーティスト、批評家、キュレーターの役割、アートマーケットの構造理解を促し、その上でのポートフォリオの役割、求められる要素などに注目した授業だった。
③学生自身が興味を持っている作家を紹介していき、その内容に関連する講義が教授の方から行われる。時には教授が担当する他の授業やワークショップなどで学生が制作したものを土台にレクチャーがあった。美術館の展示を教授の引率のもと鑑賞することも計画されている。


【後半】

Faculty of Intermedeia:
毎週の授業で個人の活動の進捗を報告し、教員や学生から意見をもらった。
同時にグループ活動(今期は教員が設定した「Kairos」がテーマ)を学期末にどのように発表するかを検討した。
11月10日〜16日:Faculty of Intermediaの学生としてスイスTschiervでの合宿に参加。チューリッヒ芸術大学(ZHdK)の学生らとの共同プログラムのキックオフのための合宿。地元のアーティストPascal Lampart氏のスタジオ訪問や修道院に併設される博物館museum & butiaなどを訪問。ZHdkの学生らとは各々の活動やプログラムに関わるアイデアの交換も行った。

Faculty of Art Education & Curatorial Studies:
毎週の授業で個人の活動の進捗を報告し、教員や学生から意見をもらった。
チェコからのErasmus学生発案のStreet Artに関するプレゼンとワークショップをポズナンの中学生に向けて実施した。

Theory Course
Case studies of Contemporary Art:
教員が各学生に特定の作家のリサーチを課し、発表を行った。
私は森村泰昌についてだった。そのほかの学生はCindy Sharmanなど。主に現代美術における引用(アプロプリエーション)などがテーマになっていた。

History of Art:
未来派などの美術運動の紹介

Art marketing and Project management:
主にアーティストのポートフォリオの作成方法、SNSなどの運用方法についてのレクチャー。そのためのアートマーケット、アートフェア、美術批評、キュレーター、美術館などの動向を具体的な事例の紹介を通して行われた。最終的には各々に自身のポートフォリオを作成・発表し、教員からのフィードバックをもらった。

 UAPの学期の始まり方はかなりゆっくりで、自主性が尊重されるため、スケジュール管理は完全に学生に委ねられていた。スケジュールの変更が日本よりも頻繁に起こるため、万一の備えをより丁寧に行う必要があった。あるいはその場での臨機応変な対応が求められた。同時に全てには対応できないため、そのような変則的な状況にストレスを感じないようにしなければ精神的に負担が大きくなる。
 私が留学していた時の交換留学生は基本的にヨーロッパから(ウクライナ、チェコ、ギリシャ、ドイツ、スイス、フランス、スペインなど)で、アジアからは私を含め2人だった。一人はフィリピン出身で台湾の大学から。美大だけでなく総合大学からも来ていた。本科生で英語で入学している学生も多数おり、彼・彼女らはポーランド外から来ていた。私が在籍した年度を見る限り、中国からの留学生がかなりいる。特にデザイン専攻に多かった。

現地での生活について

 大学の所在地はPoznan中心地。観光エリアとなる広場なども近い。大学の向かい側には国立美術館があり、隣には公立の図書館がある。大学が運営するギャラリーも点在する。

ショッピングモールも徒歩10分圏内にあり、生活に必要なものの大半は入手可能。画材屋や本屋などもある。   

 治安は良好でトラブルに巻き込まれたことはなかった。ウクライナ戦争による治安の悪化なども特になかった。深夜に一人で徒歩で帰宅することもしばしばあったが、問題に巻き込まれたことは一度もなく、数回物乞いに話しかけられる程度だった。大学構内においては治安はさらに安全。Bluetoothイヤホンを構内に置き忘れて1週間ほど経ったが、無事出てきたし、少しの時間の離席であれば荷物などをそのままにしておく学生も見られた。

・物価
 昨今高騰してきているとのことで日本よりも若干割高。
ウクライナからの移民が急激に増えているため、物件の需要が高まり物件探しは難しかった。学生寮の家賃も昨年度から1万円ほど値上がりしている。とはいえ、西ヨーロッパと比較するとまだ良心的かと思われる。

・日本文化の需要
 日本文化も想像していたよりも浸透していた。禅宗や俳句などに言及する作品も散見されたし、サブカルチャーも大衆化していた。ラーメン屋、うどん屋、和菓子カフェなど、日本食のレストランもかなり多かった。ポズナンにある歴史的な総合大学アダム・ミツケヴィチ大学(UAM)には日本語学科が設置されており、そこの学生は高度な日本語授業を受けており、会話に関してもかなり自然にすることができた。

・ポーランドのアートシーン
 留学中はまさに過渡期だった。20年間の計画が実り、ワルシャワ近代美術館の全面リニューアルを終え、10月24日に晴れてオープン。今後も増築が計画されている。ワルシャワを中心に新たなギャラリーも多くできているらしい。ワルシャワの文学博物館も別館をオープンし、今後現代美術を取り扱うギャラリーとして運営をしていくとのこと。京都芸術センターのようにワルシャワ市が運営する若手アーティスト支援を目的とした施設も数年前にオープンし、レジデンスプログラムや展示空間の提供(展示の企画・実施においてもサポートがあるとのこと)などが行われていた。
変化の背景には、昨年末に政権交代が少なからず影響している。与党が保守からリベラルになったことで、各地域の公立の文化施設は人事的な大きな変化が起こっていた。各施設の今後の動向が注目されている。

 

日本で準備しておけばよかったことなど

 ヨーロッパで主要になっているオンライン決済アプリRevoltやWiseなどの、海外での利用登録。現在、日本のアカウントは海外への送金にマイナンバーカードのスキャンなどによる追加登録が必要。両親と加須屋明子先生のサポートにより日本からマイナンバーカードを取り寄せることになった。なお現在これらのサービスの日本アカウントを持つ利用者は、携帯での決済も不可。物理カードのみ決済可能。

今後の派遣留学生に伝えたいアドバイスなど

 留学は自身の活動の機会の獲得、拡大に直結します。4ヶ月という短期間で何かを形のあるものを残すことは現実的に難しいと思います。特に私が所属する芸術学専攻は展覧会を企画し実施するには時間がやはり短いと感じました。しかし4ヶ月の滞在は未来への投資に確実になると思います。活動の機会は日本に限られているわけではなく、より開かれたものであることを実感できると思います。また、新たな表現技法や作風に挑戦できる機会になります。日本に比べてポズナン芸術大学は専攻間を自由に行き来できるため、スタジオもメディウムや技法に依存せずに選択することができます。   

留学を終えての感想

 ヨーロッパだけでも国地域で大きく美術動向が異なることを実感できる貴重な機会となりました。特にポーランドは歴史的に東西のせめぎ合いの渦中にあった国です。幸いにもワルシャワ近代美術館の歴史的なリニューアルオープンといった、ポーランドにおける美術動向の転換期に滞在が重なったことや、首都ワルシャワではなく、ポズナンが滞在先であったことなどが理解を助けたように思います。

また、自身が日本からきた人間であり、西ヨーロッパやアメリカの文脈を接種してきたことを強く意識することになりました。つまり留学先の国や地域と自身が持つ日本の文脈の差異や類似性に意識的になりました。それが大学の授業で求められることもしばしばあったからです。 自身の立ち位置の相対化について強く自覚的になりましたし、ポーランドに限らず多様な国地域、立場の方々と繋がりを得ることができました。これらの経験は今後展開していく自身の活動に大きな影響と可能性を与えることになると思います。

2024年度 マグダレナ・アバカノヴィチ芸術大学/ポーランド 谷村 無生

学部
大学院美術研究科

年度
2024

氏名/専攻
谷村 無生/芸術学専攻

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