2025年度 中央美術学院/中国 藤井 毅
学部
大学院美術研究科
年度
2025
氏名/専攻
藤井 毅/大学院美術研究科工芸専攻(陶磁器)
プロフィール
学年 大学院美術研究科工芸専攻(陶磁器) 修士1回生
留学先 中央美術学院 彫塑科/中国
留学期間 2025年9月~2026年1月






留学行動記録
| 8月29日 | 日本出国/ 中央美術学院到着/ 入寮 |
| 9月5日 | 留学生オリエンテーション/ 履修手続き |
| 9月8日 | 景徳鎮に移動/ 授業①スタート |
| 景徳鎮市のスタジオに滞在し不定期で授業・制作 | |
| 10月19日 | 授業①終了/ 北京に移動/ 授業②スタート |
| 月水金で授業・制作 | |
| 11月17日 | 授業②終了/ 授業③スタート |
| 12月14~22日 | 授業成果報告展に参加 |
| 1月15日 | 授業③終了(全授業終了) |
| 1月29日 | 退寮/ 日本帰国 |
授業や制作について
中央美術学院では、日本の美術大学のような体系的な座学科目はほとんど設けられておらず、課題ごとの実技授業を集中的に行う形式が採られていました。そのため、授業①の景徳鎮滞在授業のように、制作拠点を移動して実施する集中型授業が行われるなど、全体的に授業運営の自由度が高いと感じました。
専攻内の制作室の利用に関しても、授業単位での管理が明確に行われており、元々割り当てられた授業以外での使用には一定の制限があります。制作環境は常にプロジェクト単位で運用されており、履修内容に応じて使用可能な設備や空間が切り替わるなど、制度的でシステマチックな構造であるという印象を受けました。
また、今回は四年生の授業に参加したことも一因かもしれませんが、技法や制作手順に関する具体的な実技指導は比較的少なく、コンセプト面に対する指導や評価が中心でした。実際の制作方法については学生に委ねられる部分が大きく、個人主義的な制作姿勢が尊重されていると同時に、学生の自由な制作が保証されているように感じました。
ただ、彫刻の指導を受けてこなかった自分にとってかなり負荷がかかる授業内容だったこともあり、授業の一部は免除してもらい、授業の成果報告展での展示や、自身の制作に注力させてもらいました。授業での講評は日本ほど重視されていない印象ですが、高頻度での講評とクラスメイトの作品を見ることで、中央美術学院の彫刻科の講評の価値観や学生たちの思考プロセスへの理解が深まり、日本の考えと比較する良い機会になりました。またこのように、何が求められているかを考える中で、授業や制作に対する価値観を客観的に分析する習慣がつきました。実技科目であっても必ず成果報告のレポート提出が求められるなど、履修の証明を制作物そのものではなく文書によって明確にすることが求められました。
現地での生活について
北京では学内寮に滞在し、学食やデリバリーを利用していました。中国の大学は学内完結型の生活基盤が整備されており、ほとんどの学生が学内寮に住み、学内設備のみで生活しています。そのため、留学生にとっても生活基盤が整っており、快適に利用できました。
交通面では地下鉄とシェア自転車が発達しており、生活は非常に便利でした。一方で、デジタル決済が主流のため、初期設定時にはAlipayやWeChat Payの本人認証で苦労しました。特に中国特有の実名登録制度(パスポート等による本人確認)が多くのアプリで求められた一方、外国人のパスポート登録に対応していないアプリも少なくありません。
景徳鎮での生活はより地方的で、シェア自転車ではなくシェア電動バイクが普及していましたが、こちらも実名登録が必要なため外国人は利用できないことが多かったです。また、多くのサービスでは現地電話番号が必須となるため、番号を取得するまではアプリ利用に制限がありました。渡航前に日本で現地番号付きのプリペイドSIMを購入することも可能ですが、登録番号の変更手続きが煩雑なため、私は使用しませんでした。
現地での注意事項、治安情報、安全面などについて
体的に治安は安定しており、日本と同程度の安全性があります。夜間でも危険を感じることはほとんどありませんでした。留学期間中、日本と中国の外交関係の悪化に伴い航空便のキャンセルが発生し、帰国時の航空券の変更が必要となりましたが、結果的には軽微な調整で済み、大きな支障はありませんでした。また、現地での生活環境においても、外交関係の悪化による直接的な影響は特に見感じられませんでした。日常生活や大学での活動においても、大きな混乱や制限はなく、安定した環境のもとで滞在を継続することができました。
一方で、交通マナー(特にバイクや自転車)は日本よりも自由度が高く、赤信号で右折する車両や歩道を走行するスクーターなどには注意が必要です。特に景徳鎮では、徒歩での移動時に危険を感じる場面が多くありました。
また、北京の大気汚染は深刻で、冬季にはPM2.5の数値が京都の約7倍に達する日もあります。
水道に関しても衛生上の問題(断水や濁り水など)がよく起こるため、水回りの衛生管理には特に注意していました。
冬の北京は非常に寒冷ですが、地域熱供給により室内は快適に保たれています。ただし、供給開始前の1か月間は暖房がなく、室温が著しく低下するため注意が必要です。
通信環境については、中国国内ではグレートファイアウォールの影響で多くの海外サービスが制限されているため、VPN環境を事前に整えておくことを強く推奨します。
学内Wi-Fiは基本的に学内全域で利用可能ですが、寮内では不安定なことがありました。安定した通信を確保するには、寮の有線LANまたはLTE回線の利用をお勧めします。
準備しておけばよかったこと、持っていけばよかったものについて
日本の化粧品、目薬などの薬品は中国国内でも販売していましたが、通販では外国人は税関の都合で購入ができないなどの制限があり、持っていけば良かったと思いました。
北京の1月は最低気温が-14にもなるため厚めのアウターを持っていて助かりました。一方で、積雪は少なかったため雪のための特別な対策は不要でした。
中国では現金がほぼ使用できないためクレジットカード、デビットカード、携帯端末が日常生活での命綱になります。使用停止や使用上限金額があるリスクを鑑みてカード系は複数枚を持っていきました。 スマートフォンは日本から2台持っていき、外出時はモバイルバッテリーも必ず携帯し、携帯端末の電源が切れることがないように気をつけていました。
寮内にWi-Fiがありましたが不安定だったため、自室の有線Lanポートで直接ネットワークに接続していました。予備のスマートフォンを有線Lanに接続してW-iFiブリッジとして使用することで快適にネット利用ができました。
留学を終えての感想
本留学を通して最も大きく感じたのは、自身の制作を別の制度と社会構造の中に置いて観察する経験の重要性でした。中央美術学院では、日本とはカリキュラム面においても評価基準においても大きな違いが存在しました。その環境の中で制作を行うことで、自身の作品や思想がどのような前提の上に成り立っているのかを明確に意識することができました。
特に景徳鎮での滞在制作では、工芸の生産現場に身を置きながら、その構造的な違いを身体的に理解しました。制作技術の習得以上に、これまで漠然と考えていた工芸と社会の関係が、具体的な分業体制や流通構造の中でどのように機能しているのかを実感する経験となりました。
制度や言語の違いの中で制作を継続することは簡単ではありませんでした。しかし、不確実な状況に身を置いたからこそ、日本では意識していなかった価値観や制作環境を問い直すことができました。現地の学生との作品制作を通じた交流では、外側からの観察では見えてこない内的な感情を共有するコミュケーションとして大きな価値があったと感じています。
今回の留学は、自分自身の思考に長期的な視野を与える経験となりました。今後はこの経験を踏まえ、日本での制作においても制度や社会構造との関係を意識し、制作と研究を継続していきたいと考えています。
